昔、付き合っていた彼女はエキセントリックな人だった。
「ハガキって高いよね…切手と同じ値段だ」と切手付きハガキにまた切手を貼ったり…
「卵焼き作ってみたよ」と出された卵焼きには干し芋が巻かれていたり…
「ノリがない…困ったな」と言い、ご飯粒をノリ代わりに…そこまではまだ許容範囲だが、ご飯粒がない時に自分のハナクソを代用品に使用したりしていた。
そんな彼女と横浜に出掛けた時に2人で中華街で月餅(げっぺい)を食べた。
本場の月餅はゴマ餡の味が濃くて、最高だった。
「うわぁ…これ、こんなに美味しいんだね♬ 烏龍茶とぴったり」大喜びの彼女。
その時の月餅の味が忘れられなかったんだろう。
旅行から戻った数週間後、「またあの中華街で食べたお菓子が食べたい!」と彼女が言い出した。
ただ、地元新潟には本格的な月餅を売っている店などない。
仕方なく僕らは近所のスーパーに出掛けた。
スーパーのお菓子売り場を探しても月餅は見つからない。
品出しをしている店員さんを見つけた彼女はテンション高く、小走りに店員さんに駆け寄り、満面の笑顔で聞いた。
「すみません。月経ありますか?」
「えっ…月経ですか?…もうありませんけど…」
「タケシくん。もう無いって!」
月経ではない。月餅である。僕らが探しているのは月餅なのだ。
その後、コンビニでヤマザキの月餅を探して食べた。
「これは月餅(げっぺい)って言うんだよ」と言いながら…
横浜の味はそこにはなかった。
探し物を探しても見つからない。
目的地に向かってもなかなかたどり着けない。
それでも、僕らには探したい物があったのだ。
それでも、僕らには行きたい場所があったのだ。
残念だと思えるとしたら、それは探したい物があった証拠だ。
道に迷っていると思えるとしたら、それは行きたい場所がある証拠だ。
今日も探そう。今日も迷おう。
あなたの月餅を探そう。