ある日、異動になった。
新しい異動先には社内でも有名なとても厳しい上司がいた。
幸いなことに僕はその上司と上手く関係性を築けたこともあって、キツい指導を受けることはなかったのだが……
当時、別の課にいた中山さんという先輩は違った。
先輩は完全に霜鳥所長に目をつけられ、長い時は2時間も説教を受けることがあった。
失敗する→叱られる→パニックになる→失敗する→叱られるという悪循環。
そんなある日、私が出先から戻り、事務所に入ると、タイミング悪く霜鳥所長が中山先輩に説教をしていた。いつもならそのまま自分の仕事に戻るのだが、その時は違った。
「分かってんのかよ?中山。何度も何度も同じこと言わせるなよ。なぁ、山田を見習えよ。しっかり仕事してんだろ?なぁ、山田」
霜鳥所長が自分にも話を振ってきたので僕もその場を離れる訳にいかず、中山先輩と一緒に霜鳥所長の説教受けることになった。
「どうして見落とすんだよ!何度も確認しろって言ったのに…また同じ失敗…俺はな、お前のことを思って注意してんだよ。大きな事故に繋がったらどうすんだよ!」
霜鳥所長の説教はその後、2時間近く続いた。
霜鳥所長が時計を見る。さすがに長くなったと思った霜鳥所長は締めに入った。
「おい!中山。俺に何度同じこと言わせれば分かるんだよ。毎回毎回、同じことで説教受けて、同じ顔で謝って…金太郎飴みてぇだな、お前!金太郎飴か?お前は!?」
既に2時間説教を受け、精神状態も不安定になっていたのかも知れない。
次の瞬間、中山先輩は目に涙を溜めながら蚊の鳴くような声で返事をした。
「はい…分かりました…ひとつだけ。質問しても良いですか?」
「質問?良いよ。何だ?言ってみろ」
「はい。所長…さっき『金玉舐めろ!』とおっしゃりましたけど…今ですか?」
笑ってはいけない。
所長も2時間説教したのだ。ここで笑ったら全てが水の泡だと思ったのだろう。
必死に唇を嚙みながらこう言った。
「金玉舐めろじゃねぇよ!
金太郎飴だよ!」
「良かったぁー」次の瞬間、先輩は叫んでいた。
子供には「いじめはダメだ!」と言いながら、大人になってもパワハラがある。
セクシャルハラスメント(セクハラ) パワーハラスメント(パワハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ) パタニティハラスメント(パタハラ)
アルコールハラスメント(アルハラ)オワハラ(終われハラスメント)
カラオケハラスメント ブラッドハラスメント ハラスメントハラスメント
世の中にはハラスメントが溢れている。
「してはいけない」と規則や法律で規定されるということは、それだけ「している」ということなのだ。
無自覚ほど怖いものはない。
「してはいけない」と言われる前に「しない」大人になりたい。
金太郎飴ハラスメントもあるのかも知れないし…
あの頃に戻れるなら「舐められても良い。絶対に金玉は舐めるな!」って先輩に伝えたい。
どんなに馬鹿にされようと…どれだけ認められなくても…
自分のことを誰よりも信じてあげられる自分でいたいな。