きのみきのまま なすがまま

楽しもうと思わなきゃ楽しくないよ

おにぎり

あるお宅でお昼ご飯に誘われた。

 

「ちょうど新米が取れたので…何もないけど、おにぎりと味噌汁でもどうぞ」

 

腰の曲がった婆ちゃんが台所で一生懸命料理をしてくれた。

 

雪みたいに真っ白な新米から立ち上る湯気。

 

「いただきます!」

 

「新米を味わって欲しくて…具は入れてないよ」と笑顔の婆ちゃん。

 

「いやぁ…婆ちゃん。これ、美味しいわ。やっぱり米が違うね!」

 

「あら、本当? 喜んでくれて私も嬉しいわ。まだおかわりもあるよ!」

 

「それと、婆ちゃん。これ、塩加減がちょうど良い。これ、塩も良い塩を使ってるね!

 この塩の感じは…そうだ!岩塩とかかな?」

 

婆ちゃんは言った。

 

「えっ? 塩? 塩なんてつけてないよ。それ、米だけ」

 

するとなんだ、おい。この塩辛さはなんなんだ。

 

完全に…しっかりと…しょっぱいんだよ。

 

今や新米の旨さより、この塩分が気になってどうしようもないじゃないか。

 

もしやこれは婆さんの手の塩なのか? ミネラル豊富なやつなのか?

 

そういう方向性で握っている婆さんなのか? 

 

いや…むしろこの婆さんはミネラル婆さんなのか?

 

色々な思いが頭の中を駆け巡り…ふと横を見ると爺ちゃんが小竹のサンドパンを牛乳で流し込んでいた。

 

「うめぇなぁ。サンドパン!牛乳と合う!」

 

「間違いないよ」と僕は呟いた。 そんなある秋の日の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爺ちゃんの友達

忘れられない人がいる。

 

うちの爺ちゃんの友達。良く爺ちゃんと2人でお酒を酌み交わしていた。

 

「この外国人 日本語上手いなぁ…。日本人みたいだ」

 

友達が帰った後に爺ちゃんは教えてくれた。

 

「あのな、アレは吹き替えだ」って…

 

爺ちゃんの友達は文字や数字が読めなかった。

 

ある日、爺ちゃんといつものようにお酒を酌み交わした友達は言った。

 

「おっ!そろそろ帰る時間だな。遅くまで悪かった!」

 

友達が帰った後に爺ちゃんは教えてくれた。

 

「あのな、今、アイツが見てたのは温度計だ」って…

 

爺ちゃんの友達は三味線が趣味だった。ある日、爺ちゃんといつものようにお酒を酌み交わした友達は言った。

 

「三味線弾いてやるぞ。子供たちも呼んで来い」

 

はじめての三味線だ。どんな音色なんだろう…僕は少し緊張して演奏を待った。

 

「べべんべん。べん。べべん。べん。べべん。べーん。はっ!べんべべん。はっ!」

 

口だった。全力で口でべんべん言っていた。はっ!と言う時に目をカッと開くのが怖かった。

 

友達が帰った後に爺ちゃんは教えてくれた。

 

「あのな、本当の三味線は弾くものだって…

 

文字が読めなくても、数字が読めなくても…人としての魅力に溢れる人だった。

 

あんな笑顔で楽しそうに…無邪気に生きれる大人って素敵だと思う。

 

きっと天国で今頃、爺ちゃんに三味線聞かせているんだろうなぁ。

 

「べべんべん。べん。べべん。べん。べべん。べーん。はっ!べんべべん。はっ!」