きのみきのまま なすがまま

楽しもうと思わなきゃ楽しくないよ

スキー教室

「たけし。明日のスキー教室の準備出来たの?」

 

「うん。お母さん。準備したよ!スキーウエアに…スキーも持ったし…おやつも入れたよ。お昼はみんなでカレーだって♪ 楽しみだなぁ。スキー教室」

 

「初めてのスキー教室だもんね。楽しんできてね!」

 

「うん!僕、スキーは得意だから♪ 楽しんでくるね!」

 

こうして僕は初めてのスキー教室に出掛けた。バスに揺られて1時間…初めてのスキー場に到着した。

 

僕はスキーに自信があった。スキー場には行ったことが無かったが、小さい頃から家の周りでスキーをしていたし、学校でもスキー授業があったから。

 

だから、スキー教室って言われても「教えてもらうことなんかないのになぁ」くらいに思っていた。

 

「では、皆さん。自分の荷物を確認して…まずはスキーを履いて、準備してください。履き方が分からない人は先生に言うこと!」

 

「はーい!」

 

次の瞬間、僕は自分の目を疑った。

 

みんなのスキーが太い! 驚くほど太い! そして、なんなんだ…あのロボットの足みたいな靴は… なんだ… これはいったい…

 

「たけし君 どうしたの? スキー忘れたの?」

 

クラスメートの真紀ちゃんが尋ねてきた。

 

「えっ…いや…スキー持ってきたんだけどさ…」

 

僕は恐る恐る自分のスキーを袋から出した。

 

「やだ。たけし君…それ、クロスカントリースキーじゃない!」

 

先生がその声を聞いて駆け寄ってきた。

 

「たけし。少し先生と話をしよう」

 

先生は優しかった。怒りの先に諦めがあり、諦めの先に哀れみがあると僕は思う。

 

「たけし。今日はな、アルペンスキーの授業なんだ。どうする?スキー場でレンタルすることも出来るぞ」

 

「先生。大丈夫です!僕、お父さんと何度もスキー場に来ています。このスキーで何度も滑っているから。大丈夫です」

 

「いや…たけし…それは…本当にお父さんとそのスキーでスキー場で滑ってるのか?」

 

「うん。先生。うちはお父さんもお母さんも…妹もこのスキーでスキー場に何度も来ています!」

 

周りの憐れみの視線が辛くて…僕は嘘をついてしまった。

 

そして、僕はクロスカントリースキーのまま、初めてのスキー教室に参加することになった。

 

「では、みんな揃ったので…リフトに乗ります。乗ったことない人は手をあげて」

 

この時点で僕はもうクロスカントリースキーを履いて何度もスキー場に来ている男の子なのである。「リフトって何?」と心臓がバクバクするが、言い出せない。

 

それなのにリフトまで行くとなったら、誰よりも速い。何故ならクロスカントリースキーだからだ。平地を進む時の僕の姿を見ろ。なんたって靴がスキーから離れるからな。お前らみたいにギブスで固定したような足じゃないんだ。

 

なんて思いながら初めてのリフトに到着した僕は見よう見まねでリフトに乗った。

 

怖かった。ものすごく怖かった。

 

隣に座った優くんが僕に尋ねてきた。

 

「たけし君、凄いね。そのスキーで上から滑ってくるの?それ止まれる?」

 

「うん……大丈夫だよ…ところで優くん…このリフトって最後、どうなるんだっけ?飛び降りるんだっけ?なんか前に来た時と違うからさ…ちょっと教えて」

 

「たけし君…大丈夫?顔色が悪いよ。リフト飛び降りちゃだめだよ!それ、前にどんなリフト乗ったの?ほら、もうつくよ。足上げて滑って降りるんだよ」

 

何とか見よう見まねでリフトから降りた僕は降りた瞬間にその景色に度肝を抜かれた。

 

平らじゃない。なんなんだ。この斜面は…こんなところをこのほっそい、ほっそいスキーで滑って降りれる訳ないじゃないか‥

 

そして、スキー教室が始まった‥

 

 「では、皆さん。スキーの先端を重なるようにして‥ゆっくり行きましょう。止まる時はエッジを効かせて‥さぁ。先生の後に着いてきてください」

 

ぎゃーーーーーーー‼️ 

 

 止まれる訳が無かった。エッジを効かせてと言われても、エッジなんか無いんだから。だって、ホラ‥ほっそい、ほっそいスキーなんだから‥

 

結果、僕はレスキューの人のスノーモービルに乗って下まで降りることになった。クロスカントリースキーを肩に担いだ小学生が雪山をスノーモービルで駆け降りてくる。怪我なんてしていない。ただ、僕はクロスカントリースキーを持ってきてしまっただけなんだ。 

 

その後、僕は先生からお金を借りて…アルペンスキーをレンタルした。

 

凄く楽しかった。

 

先生は最後まで優しかった。友達も誰一人クロスカントリースキーを持ってきたことを聞かなかった。きっと先生が言ってはダメだと伝えてくれたのだろう…

 

ただ、お昼にカレーを食べながら、優くんは一言だけ「スノーモービルに乗って下がっていった姿…たけし君、格好良かったよ」と言ってくれた。

 

僕は顔を真っ赤にさせて「ありがとう…」と言った。

 

小さな嘘は大きな嘘に繋がっていく。

 

物事の解決には適切な道具を選ぶこと。

 

憐れみはどの感情よりも心にこたえること。

 

スキー場のカレーは美味いこと。

 

色々なことを学んだ僕の初めてのスキー教室。