僕らは初めて産まれたんだ。
だから、失敗なんて当たり前。どんなことにも「はじめて」はあるんだ。
僕と父親は2人で買い物に出掛けた。その日は父親が旅館の仕事で忙しく、ゆっくり過ごす時間は無かった。
「タケシ。腹減ったな。飯食ってくぞ!時間も無いからマクドナルドにするぞ」
マクドナルド? それは僕にとっての「はじめて」だった。
自動ドアが開く。父親は物凄い勢いでマクドナルドに入っていく。
「コレとコレ。こいつにもコレとコレで。飲み物は…コーヒーとオレンジジュースで」
あっという間に注文をして凄い勢いで席に座る父親。僕も後に続く。
「お父さん。これがマクドナルド? なに?パン屋さん?」
「おー。タケシはマクドナルド初めてだもんな。マクドナルドはファーストフードだな。早いし、美味いぞ。来たら一気に食えよ!」
そして、運ばれてきたチーズバーガーに父親は物凄い勢いで食らいつき、油で手と口をベタベタにしながらポテトをこれでもかと頬張っていく。
「タケシ!行くぞ!!」
一気に食べ終えた父親はテーブルにトレーとゴミをそのままに走り出すように店を飛び出していった。まだ食べ切れていないチーズバーガーとポテトをそのままに僕も父親についていく。
「お父さん。マクドナルドって美味しいね!僕、全然食べれなかったけど…でも、凄い美味しかった」
「マクドナルドはファーストフードだからな。ファーストは早いって意味だぞ。タケシも次はもっと早く食べられるようにならなきゃな!」
そして、父親は旅館の仕事に向かった。
それから1年後…中学生になった僕は友達3人と買い物に出掛けた。
「よし。お昼はマクドナルドにしようぜ!」
友達の和也が言い、僕らはマクドナルドに入った。
自動ドアが開く。僕は凄い勢いで店に入り、チーズバーガーセットを注文した。
届いたチーズバーガーに必死になって食らいつき、ポテトをウーロン茶で流し込んだ。
友達が僕に話しかけてくるが、そんなこと構っていられない。
食べ終えた僕はテーブルにトレーとゴミを置いたまま、急いで店を飛び出した。
「タケシくーん!!どうしたの? なに? 具合悪いの?」
友達の和也が追いかけてきた。
僕は言った。
「はぁ…はぁ…みんな…もっと早く食べなきゃダメだよ!」
その日、僕は知った。
ファーストフードは注文してからすぐに食べられる手軽な食事だということを。
決して急いで食べる必要などないということを…
マクドナルドのトレーとゴミは自分で片付けるんだということを…
失敗なんかない。僕らはいつも成功の途中なんだ。
だって、僕ら初めて産まれだんだから。
あぁ…ハッピーセットって良い響きだなぁ…