我が家には和式トイレしかなかった。
僕が中学生の頃、トイレを改装することになったが、父親と母親に意見の対立が生じていた。
母親は洋式トイレにしたいと主張する。僕も妹も洋式トイレに賛成した。
しかし、父親は「洋式トイレだとウンコが出ない。男は黙って和式トイレだ!」と突然、日本男児の生き様みたいなことを主張して譲らない。
結果、我が家では和式トイレの横に洋式トイレが設置されるという謎のトイレ環境が完成することとなった。
父親は和式トイレを使い、他の家族は洋式トイレを使う。
そんなある日、トイレ掃除をしていた母親が聞いたことのないような叫び声をあげた。
「きゃー!!なに?これ!?」
血相を変えて母親が茶の間に飛び込んできた。
「どうしたの?お母さん?」僕は尋ねた。
「どうしたもこうしたもないわ!ウンコが丸々1本、トイレからはみ出てるのよ!そんなことあり得る?」
「なに?なに?どうした?」
「どうしたじゃないわよ!和式トイレ使うのあなただけでしょ!?少しはみ出ちゃったなら分かるけど、丸々1本よ!丸々1本!外にはみ出して気付かないなんてことある?」
「いや…まさかな…まさか…ウンコが丸々1本、外にはみ出るなんて誰も思わないだろ?」
「何言ってるのよ?事実、はみ出てるじゃない!!」
「いや…だから、はみ出てることは認めるよ。もう、それは実際にはみ出てるんだろ?和式トイレ使うのは俺だけだからな。もう、これは逃げも隠れも出来ない。俺だよ。俺。間違いない。でもよ…お前…まさかウンコが丸々1本、トイレからはみ出るなんて思うか?思わないだろ?」
その後も、父親は「まさかウンコが丸々1本、外にはみ出るなんて思わないだろ?」という謎の主張を繰り返した。
母親は文句を言いながらも、トイレを掃除した。
「もう、汚すぎる。不潔。二度としないで!」掃除を終えた母親が父親を叱りつけた。
「いや…まさかウンコが丸々1本、トイレからはみ出るなんて思わなかったから…俺、綺麗好きなんだけどなぁ…」
と父親は呟いて、机の上の爪楊枝を指さした。
「ほら、爪楊枝はこうやって置くんだぞ!」
そんな豆知識はいらない。
トイレからはみ出ないようにしてください。お父さん。
そんなことはあり得ない。
そう思った時点で人間の成長は止まる。
想像を超えた先に新しい創造が待っているのだ。
出来る訳ない。
あり得ない。
あなたが何かに挑戦する時、ほとんどの人があなたをあざけ笑うだろう。
だが、それこそがあなたが人の想像を超えた証拠でもあるのだ。
想像しよう。
出来る訳ない。
あり得ない。
その先を想像出来る人が
あり得ない世界を創造出来るのだ。
想像しよう。そうしよう。
創造しよう。そうしよう。
はみ出ちゃえば良いんだ。