私の父親は、その昔、村議会議員選挙に立候補した。
熱を帯びる選挙活動。1票が勝敗を分ける熱い戦い。
選挙活動のさなか、爺ちゃんの友達が家に来てこう言った。
「よし! 俺も1票入れるよ!」
だが、爺ちゃんの友達は字が書けなかった。
選挙当日、爺ちゃんは段ボールを名前の形にカッターで切り抜いていた。
ヤ マ ダ
「良いか?投票用紙にこの段ボールを当てて…鉛筆でなぞって字を書いてこい。それで投票できるから」
「分かった!行ってくる!」
爺ちゃんの友達は選挙に向かった。
投票が終わって、爺ちゃんの友達が帰ってきたが、何故か表情が冴えない。
爺ちゃんは尋ねた。
「どうした? ちゃんと投票できたか?」
「いや…段ボールどっちが上か聞いてなくて…こっちを上にして書いてきた…」
ダ マ ヤ
うん。
結果じゃないよ。気持ちが嬉しいってことあるよね。
あったかいじゃない。気持ちが嬉しいじゃない。
結果、父親は選挙に受かった。
きっと爺ちゃんの友達の1票は無効票だっただろう…
でも、どの1票よりも 必死に段ボールに沿って書いた
ダ マ ヤ
今でも、これが一番、あったかい1票だったと思う。