きのみきのまま なすがまま

楽しもうと思わなきゃ楽しくないよ

幸せになる秘訣…

幸せとはなんだろうと考える。

 

幸せは人それぞれだ。

 

相田みつをも言っている。「幸せはいつも自分の心が決める」

 

まさにそうだ。 幸せの定義は人それぞれだ。

 

ある人は白いご飯を食べられたらそれだけで幸せだというかも知れない。

 

一方である人は年収700万円無いと幸せではないというかも知れない。

 

そう考えると幸せになる秘訣のひとつは「幸せのハードルは低くして、不幸せのハードルを高くする」ことだと思う。

 

例えば、コーヒーをゆっくりと飲む時間があれば幸せだとしたら、あなたが幸せになれるチャンスはぐっと高くなるだろう。

 

逆に全財産を失って、世界中の人が自分のことを嫌いだということを不幸せだとしたら不幸せになる確率はぐっと低くなるだろう。

 

テレビをつけると暗いニュースが続いている。コロナ、戦争…

 

そんな僕は最近、ジャパニーズヒップホップを聞きまくった。

 

知るということには2段階あると思う。

 

例えばお寿司について…本やネットから情報を集めた人は言うだろう。

 

「酢飯の上に魚の切り身が乗っている日本の食べ物だ」と…これもお寿司について知っているのかも知れないが、これはお寿司を本当に知っていると言えるだろうか?

 

本当の意味でお寿司について知っているのはお寿司を食べたことがある人間なのではないだろうか?

 

経験を通してはじめて人は本当に知ることが出来る。

 

だから、僕は本当に何かを知りたい時には経験者=体験を通して学んだ知識を聞くことにしている。

 

さて、本題に戻ろう。

 

僕は知りたいから…最近、ジャパニーズヒップホップを聞きまくった。

 

遊び金欲しさに  どついちまって悪かったなおっさん 障害や窃盗 恐喝に強盗 他の地区との抗争 楽しくて失禁しそう (MSC 心にゆとりさわやかマナー)

 

たかだか大麻、ガタガタ抜かすな(舐達磨 LifeStash)

 

お袋は包丁 妹は泣きっ面に馬の骨の罵声はサディスティックだ 水商売 母一人子二人 薄暗い部屋で眺めた小遣い 馬の暴力は虐待と化す 十三の八月 何かが始まる 中学卒業も更生院 数年後には準構成員(小名浜 鬼)

 

川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ(BADHOP KawasakiDrift)

 

kill kill kill 俺を殺しな 俺を殺しな だって俺は殺し屋 お前の命危ないから 殺しな 俺は殺し屋 (ANARCHY Kill Me feat.般若)

 

どうしたことだ。これ、同じ日本だぞ。物騒にも程があるぞ…警察案件ばかりじゃないか…暴力、虐待、薬物、そして殺し屋という自己紹介。

 

とんでもねぇ経験してやがるな…

 

でも、これだけの経験をしている人が伝える「幸せになる秘訣」があるとしたら…

 

これ、間違いないと思いませんか?

 

ジャパニーズヒップホップを聞きまくった結果…多くのラッパーが共通して歌っていたのが…

 

・自分 ・家族 ・友人 ・地元 ・夢  この5つでした。

 

ありとあらゆる経験…暴力、虐待、薬物、殺し屋などという自己紹介…とんでもない経験を通して…彼らがリリックに乗せていた幸せになる秘訣は…

 

・自分 ・家族 ・友人 ・地元 ・夢  この5つでした。

 

自分:自分を大切にしましょう。この世に自分は自分だけ。自分を愛してあげましょう。

 

家族:特に親に感謝している比率高過ぎです。中でも母親ですね。やんちゃして迷惑かけました…からのマジ感謝です。

 

友人:これはどんな時でも自分を信じてくれた友ですね。どんな時でも傍にいてくれた、信じてくれた親友。絶対裏切らないマイブラザーです。

 

地元:何故か地元を愛している比率高いです。俺を育んだ地元・地域にリスペクトです。

 

夢:やっぱり持つべきです。夢ですよ。夢。周りは全部否定した。だけど俺は捨てないマイドリームです。

 

はい。皆さん、注目です!

 

少年院に行く必要はありません。障害、暴行、虐待、ましてや殺人などする必要はないんです!違法薬物、これもやらなくて良いです!

 

もうそれ全部やった人がリリックに乗せて教えてくれてますから。

自らの経験・体験を通して教えてくれていますから。

 

なので…もし、あなたが幸せになりたければ…

 

自分を大切にしましょう。自分を愛せなきゃ人は愛せません。

 

家族に感謝しましょう。そりゃ色々あるけど、ありがとうと伝えましょう。

 

友達…少なくて良いんです。ただ、あなたのことを信じてくれる、そしてあなたも信じてあげられる友人は貴重です。大切にしましょう。

 

地元…地域を愛しましょう。あなたが住んでいる地元、地域が素敵になるように心がけましょう。

 

夢を持ちましょう。馬鹿にされても良い。むしろ馬鹿にされるくらいの夢を持ちましょう。

 

ほら。

 

幸せの秘訣って少年院や警察沙汰…違法薬物を経験しなくても身近にあるんです。

 

経験を通して教えてくれています。ジャパニーズヒップホップ。

 

リスペクト。

 

※ 実は今までジャパニーズヒップホップは聴かず嫌いで…今回、聴きまくったところ素敵な歌見つけました。おすすめです♪

 

www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファーストフード

僕らは初めて産まれたんだ。

 

だから、失敗なんて当たり前。どんなことにも「はじめて」はあるんだ。

 

僕と父親は2人で買い物に出掛けた。その日は父親が旅館の仕事で忙しく、ゆっくり過ごす時間は無かった。

 

「タケシ。腹減ったな。飯食ってくぞ!時間も無いからマクドナルドにするぞ」

 

マクドナルド? それは僕にとっての「はじめて」だった。

 

自動ドアが開く。父親は物凄い勢いでマクドナルドに入っていく。

 

「コレとコレ。こいつにもコレとコレで。飲み物は…コーヒーとオレンジジュースで」

 

あっという間に注文をして凄い勢いで席に座る父親。僕も後に続く。

 

「お父さん。これがマクドナルド? なに?パン屋さん?」

 

「おー。タケシはマクドナルド初めてだもんな。マクドナルドはファーストフードだな。早いし、美味いぞ。来たら一気に食えよ!」

 

そして、運ばれてきたチーズバーガーに父親は物凄い勢いで食らいつき、油で手と口をベタベタにしながらポテトをこれでもかと頬張っていく。

 

「タケシ!行くぞ!!」

 

一気に食べ終えた父親はテーブルにトレーとゴミをそのままに走り出すように店を飛び出していった。まだ食べ切れていないチーズバーガーとポテトをそのままに僕も父親についていく。

 

「お父さん。マクドナルドって美味しいね!僕、全然食べれなかったけど…でも、凄い美味しかった」

 

マクドナルドはファーストフードだからな。ファーストは早いって意味だぞ。タケシも次はもっと早く食べられるようにならなきゃな!」

 

そして、父親は旅館の仕事に向かった。

 

それから1年後…中学生になった僕は友達3人と買い物に出掛けた。

 

「よし。お昼はマクドナルドにしようぜ!」

 

友達の和也が言い、僕らはマクドナルドに入った。

 

自動ドアが開く。僕は凄い勢いで店に入り、チーズバーガーセットを注文した。

 

届いたチーズバーガーに必死になって食らいつき、ポテトをウーロン茶で流し込んだ。

 

友達が僕に話しかけてくるが、そんなこと構っていられない。

 

食べ終えた僕はテーブルにトレーとゴミを置いたまま、急いで店を飛び出した。

 

「タケシくーん!!どうしたの? なに? 具合悪いの?」

 

友達の和也が追いかけてきた。

 

僕は言った。

 

「はぁ…はぁ…みんな…もっと早く食べなきゃダメだよ!」

 

その日、僕は知った。

 

ファーストフードは注文してからすぐに食べられる手軽な食事だということを。

 

決して急いで食べる必要などないということを…

 

マクドナルドのトレーとゴミは自分で片付けるんだということを…

 

失敗なんかない。僕らはいつも成功の途中なんだ。

 

だって、僕ら初めて産まれだんだから。

 

あぁ…ハッピーセットって良い響きだなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキー教室

「たけし。明日のスキー教室の準備出来たの?」

 

「うん。お母さん。準備したよ!スキーウエアに…スキーも持ったし…おやつも入れたよ。お昼はみんなでカレーだって♪ 楽しみだなぁ。スキー教室」

 

「初めてのスキー教室だもんね。楽しんできてね!」

 

「うん!僕、スキーは得意だから♪ 楽しんでくるね!」

 

こうして僕は初めてのスキー教室に出掛けた。バスに揺られて1時間…初めてのスキー場に到着した。

 

僕はスキーに自信があった。スキー場には行ったことが無かったが、小さい頃から家の周りでスキーをしていたし、学校でもスキー授業があったから。

 

だから、スキー教室って言われても「教えてもらうことなんかないのになぁ」くらいに思っていた。

 

「では、皆さん。自分の荷物を確認して…まずはスキーを履いて、準備してください。履き方が分からない人は先生に言うこと!」

 

「はーい!」

 

次の瞬間、僕は自分の目を疑った。

 

みんなのスキーが太い! 驚くほど太い! そして、なんなんだ…あのロボットの足みたいな靴は… なんだ… これはいったい…

 

「たけし君 どうしたの? スキー忘れたの?」

 

クラスメートの真紀ちゃんが尋ねてきた。

 

「えっ…いや…スキー持ってきたんだけどさ…」

 

僕は恐る恐る自分のスキーを袋から出した。

 

「やだ。たけし君…それ、クロスカントリースキーじゃない!」

 

先生がその声を聞いて駆け寄ってきた。

 

「たけし。少し先生と話をしよう」

 

先生は優しかった。怒りの先に諦めがあり、諦めの先に哀れみがあると僕は思う。

 

「たけし。今日はな、アルペンスキーの授業なんだ。どうする?スキー場でレンタルすることも出来るぞ」

 

「先生。大丈夫です!僕、お父さんと何度もスキー場に来ています。このスキーで何度も滑っているから。大丈夫です」

 

「いや…たけし…それは…本当にお父さんとそのスキーでスキー場で滑ってるのか?」

 

「うん。先生。うちはお父さんもお母さんも…妹もこのスキーでスキー場に何度も来ています!」

 

周りの憐れみの視線が辛くて…僕は嘘をついてしまった。

 

そして、僕はクロスカントリースキーのまま、初めてのスキー教室に参加することになった。

 

「では、みんな揃ったので…リフトに乗ります。乗ったことない人は手をあげて」

 

この時点で僕はもうクロスカントリースキーを履いて何度もスキー場に来ている男の子なのである。「リフトって何?」と心臓がバクバクするが、言い出せない。

 

それなのにリフトまで行くとなったら、誰よりも速い。何故ならクロスカントリースキーだからだ。平地を進む時の僕の姿を見ろ。なんたって靴がスキーから離れるからな。お前らみたいにギブスで固定したような足じゃないんだ。

 

なんて思いながら初めてのリフトに到着した僕は見よう見まねでリフトに乗った。

 

怖かった。ものすごく怖かった。

 

隣に座った優くんが僕に尋ねてきた。

 

「たけし君、凄いね。そのスキーで上から滑ってくるの?それ止まれる?」

 

「うん……大丈夫だよ…ところで優くん…このリフトって最後、どうなるんだっけ?飛び降りるんだっけ?なんか前に来た時と違うからさ…ちょっと教えて」

 

「たけし君…大丈夫?顔色が悪いよ。リフト飛び降りちゃだめだよ!それ、前にどんなリフト乗ったの?ほら、もうつくよ。足上げて滑って降りるんだよ」

 

何とか見よう見まねでリフトから降りた僕は降りた瞬間にその景色に度肝を抜かれた。

 

平らじゃない。なんなんだ。この斜面は…こんなところをこのほっそい、ほっそいスキーで滑って降りれる訳ないじゃないか‥

 

そして、スキー教室が始まった‥

 

 「では、皆さん。スキーの先端を重なるようにして‥ゆっくり行きましょう。止まる時はエッジを効かせて‥さぁ。先生の後に着いてきてください」

 

ぎゃーーーーーーー‼️ 

 

 止まれる訳が無かった。エッジを効かせてと言われても、エッジなんか無いんだから。だって、ホラ‥ほっそい、ほっそいスキーなんだから‥

 

結果、僕はレスキューの人のスノーモービルに乗って下まで降りることになった。クロスカントリースキーを肩に担いだ小学生が雪山をスノーモービルで駆け降りてくる。怪我なんてしていない。ただ、僕はクロスカントリースキーを持ってきてしまっただけなんだ。 

 

その後、僕は先生からお金を借りて…アルペンスキーをレンタルした。

 

凄く楽しかった。

 

先生は最後まで優しかった。友達も誰一人クロスカントリースキーを持ってきたことを聞かなかった。きっと先生が言ってはダメだと伝えてくれたのだろう…

 

ただ、お昼にカレーを食べながら、優くんは一言だけ「スノーモービルに乗って下がっていった姿…たけし君、格好良かったよ」と言ってくれた。

 

僕は顔を真っ赤にさせて「ありがとう…」と言った。

 

小さな嘘は大きな嘘に繋がっていく。

 

物事の解決には適切な道具を選ぶこと。

 

憐れみはどの感情よりも心にこたえること。

 

スキー場のカレーは美味いこと。

 

色々なことを学んだ僕の初めてのスキー教室。

 

 

目薬

「パフェの語源はパーフェクトだよ!」という情報くらいに既にご存じの方もおられましょうが… 私が産まれた家ではテレビがまともに映らなかった。

※ 気になる人はblogのアンテナを読んでみよう♬

 

さて、中学生の頃といえば、自意識が芽生え、格好をつけたくて仕方がないお年頃…

 

クラスで目薬が流行った。授業が終わるとみんな目薬を差す。

 

その姿が格好良くて僕も親に頼んで目薬を買ってもらった。

 

ある日、クラスの女の子達と話していた時に目薬の話になった。

 

「私、リセって目薬使ってるよ。タケシくんは?男の子はどんな目薬使うの?」

 

美咲ちゃんが僕に尋ねてきた。

 

ここで僕の格好つけたい気持ちが全面に出てしまった。

 

「俺? 俺はキメだね。キメ。刺激強いけど、効くんだよ、キメは!」

 

全力で格好つけて僕は言った。

 

「えー、キメなんて目薬あるんだぁ。見せて、見せて♪」

 

「ほら。コレだよ。コレ」

 

 

 

         

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「えっ…これ…キメじゃないよ!エフエックスだよ!」

 

 

「エッ…エッ…エフエックスゥ~!?…知らなかった。テレビでCMとか観たことなかったから…てっきり達筆の書道家が墨を撒き散らしながら勢い良く キメ って書いたオシャレ全開のパッケージかと思ってたよ…」心の中で呟きながら…恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて僕は言った。

 

 

「やっぱりな…そうだよね!」

 

 

あれから数十年…僕は間違えを素直に認められる大人になれただろうか?

 

はじめて産まれたんだ。間違えるのが当たり前。

 

大切なことは素直に間違えを認めることなんだ。

 

エフエックス。ありがとう。君のお陰で学ぶことが出来たよ。

 

缶コーヒー

「カボチャの語源はカンボジアだよ!」という情報くらいに既にご存じの方もおられましょうが… 私が産まれた家ではテレビがまともに映らなかった。

※ 気になる人はblogのアンテナを読んでみよう♬

 

中学生になった時にクラスのみんなが「昨日、月9観た?」と盛り上がっている時、「あ~、ゲツクね…観たよ。凄かったね!」と言いながら、頭の中では「ゲツクとは何ぞや? スポーツか…芸人か…はたまた番組名か?…」と自問自答を繰り返すのである。まるで暗闇の中で未知の敵と戦っているかのような日々を通して、僕は「分かるわぁ、分かる!」で大抵の会話は乗り越えられることを知った。

 

さて、中学生の頃といえば、自意識が芽生え、格好をつけたくて仕方がないお年頃…

 

ある日、「負けた奴がジュースを奢る」というゲームをしていた。

 

結果、クラスメートの直也がゲームに負け、みんなにジュースを奢ることになった。

 

「何飲みたい?俺、買ってくるよ」 コーラ、オレンジ、リンゴジュース…

思い思いに直也に注文するみんな…

 

ここで僕の格好つけたい気持ちが全面に出てしまった。

 

直也が尋ねる。「タケシは何にする?」

 

「俺?…俺はそうだな…コーヒーが良い。ゲオルギアの缶コーヒーが良いな!」

 

「何? ゲオルギアの缶コーヒー? そんなのあったっけ?」

 

「あるよ!前に自販機で見たもん。家のお父さん買ってきて、家で良く飲んでるし…」

 

「分かったよ。まぁ、行ってくるわ」

 

直也が自販機に向かって走り出した。

 

しばらくして直也が戻ってきた。

 

「タケシ。コーヒーなんだけど、ゲオルギアなんて無かったよ。これしか無かった」

 

そう言って直也が渡してきた缶コーヒーはゲオルギアだった。

 

全力で格好つけて、僕は言った。

 

「直也。ありがとう。これだよ!これ。美味しいんだよ。ゲオルギア」

 

 

「えっ…それ…ジョージアだよ!」

 

 

  

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「ジョ…ジョ…ジョージア!?…知らなかった。テレビでCMとか観たことなかったから…」 心の中で呟きながら…恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて僕は言った。

 

「分かるわぁ…分かる!」

 

この日、僕はこの世に「分かるわぁ…分かる!」では絶対に乗り越えられない会話があることを知った。

 

あれから数十年…僕は知らないことを知らないと言えるそんな大人になれただろうか?

 

GEORGIA  ありがとう。ジョージア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手袋

クラスメートの美帆ちゃんは誰からも好かれる女の子だった。

 

美帆ちゃんはとてもオシャレで、小学生の僕たちが見たこともない素敵な服や小物を身に着けて学校に来ていた。

 

冬のはじまり。美帆ちゃんがミトン型の手袋をしてきた。

 

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「うぁ~♡ 美帆ちゃん可愛い手袋だぁ♬」

 

「うん。お母さんが編んでくれたの」

 

「良いなぁ…私もそういう手袋欲しい~」

 

美帆ちゃんは人気者だ。男女関係なく美帆ちゃんの周りに輪が出来ていく。

 

すると突然、教室の端っこから大きな声が聞こえてきた。

 

「私だって持ってるもん。そんな手袋!」

 

洋子だった。

 

洋子はクラスの人気者の美帆ちゃんにあからさまに敵対心を見せていた。

 

「お前なんか、あんな可愛い手袋持ってる訳ないだろ?馬鹿じゃねぇの?」

 

男子が洋子にからんでいく。

 

「持ってるもん!」

 

「はい。嘘~!」「うっそつき!うっそつき!うっそつき!」

 

「本当に持ってるもん!! 帰りに見せてあげるから!」

 

そのまま授業が始まり…帰宅時間がやってきた。

 

帰宅のチャイムが鳴り響く中、洋子が支度を始めた。

 

すると洋子の手には確かにミトン型の手袋があるではないか?…

 

クラスの誰もが目を疑った。

 

「ほら。これ! 私も持ってるもん! 謝ってよ!」

 

クラスの男子が洋子に謝ろうとしていた時、僕は気付いた。

 

ミトン型手袋の親指の部分がないではないか…

 

それは靴下だった…。

 

洋子は靴下を手にはめていた。

 

もうそれは手袋ではない。足袋だ。いや、足袋でもないぞ…それは靴下袋なのか? 

 

待てよ。厳密に言えば…それは手袋(靴下を添えて…)みたいなものじゃないのか?

 

様々な思いが僕の頭の中を駆け巡っていく。

 

その時、美帆ちゃんがすっと立ち上がり、クラスのみんなに語り掛けた。

 

「みんなで謝ろう! 洋子ちゃんごめんねって言おう!」

 

続いてガキ大将の大輔もみんなの前に出て洋子に謝った。

 

「そうだな。洋子、ごめんな。疑って…」

 

その一言を合図にクラスのみんながどんどん洋子に謝っていく。

 

青春全開、学園ドラマのようなシーンの中、僕は言った。

 

「洋子。それ靴下じゃね?」

 

今の僕なら言えただろうか?

 

「それ、靴下じゃない?」

 

空気を読む。

 

大人になると言えなくなることが多くなる。

 

「それ、靴下じゃない?」

 

言えるような大人でありたいと思う。

 

次の日からしばらく洋子のあだ名は「靴下ハメ子」だった。

 

ごめん。洋子。

 

でも、それは靴下だ。

 

また冬がやってくる。

 

「靴下ハメ太郎にでもなろうかな…」

 

僕は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめて彼女が実家に泊まりに来ることになった。

 

母親は数日前から「緊張しちゃうな。ご飯なに作れば良いんだろう?」と繰り返している。妹は「こんな山奥に…良く遊びに来るねぇ。お兄ちゃんの何が良いんだろう?」などと生意気を言いながらも、どこか嬉しそうだ。

 

悩みに悩んだ末、父親が言った。「そうだ!鍋にしよう!」

 

父親は旅館に勤めていた。そのため、問屋に行って色々な魚介類を仕入れ、豪華な海鮮鍋で彼女をもてなすことにした。

 

「はじめまして。すみません…今日は夕飯までご馳走になって…」

 

「いえいえ、大したもの作れませんけど、みんなで鍋でも食べましょう」

 

和やかな雰囲気で鍋を囲んで会話が弾む。

 

「遠慮なく食べてね。嫌いなものとか無いかしら?」母親が笑顔で尋ねる。

 

「はい。美味しくいただいてます。とっても豪華な……」と彼女が答えかけた時、聞いたことのない声が和やかな雰囲気を引き裂いて響いた。

 

「ふべらっ!ふべっ…ふべべっ!ふべっ!

 いてぇー! なんだ、これー!」

 

爺ちゃんを見ると見たことのない魚の骨が舌に刺さっていた。

 

もう小骨なんてレベルじゃない。「そんな骨どこにありました?それ、彫刻刀ですか?」と聞きたくなるレベルの大きさの骨が舌に突き刺さっているではないか…

 

血がダラダラと舌から滴り落ちる。

 

余りの出来事に誰も言葉を発しない。誰もが口をポカンと開けて、ただ爺ちゃんをじっと見つめていた。

 

その時、彼女が「大丈夫ですか!?」と声を発した。

 

「明らかに緊急事態!だが、今日は初めて孫の彼女と鍋を囲んだ日ではないか!しっかりしろ!気をしっかり持て!孫の前で俺は何をしているんだ?こんな骨がなんだ!」と爺ちゃんは思ったのだと思う。

 

そのまま舌に突き刺さった彫刻刀のような魚の骨を鬼の形相で引っこ抜いた。

 

「大丈夫?」我に返った母親が尋ねる。

 

何事もなかったかのように取り皿に入った血で真っ赤に染まった汁を飲み干し、今日一番の笑顔で爺ちゃんは言った。

 

「全くなんともない! 舐めときゃ治る」

 

その時、誰もが思った。「舐める部分をやられているんだ」と…

 

「本当に大丈夫?」真っ青な顔をして妹が心配そうに尋ねる。

 

「全くなんともない! おかわりするぞ!でも、ポン酢はやめておく」

 

その時、誰もが思った。「ポン酢の問題ではない」と…

 

その夜、僕は彼女に言った。「ごめん。びっくりさせちゃったね…」

 

彼女は言った。

 

「ううん。大丈夫。うち、お爺ちゃんいないから…私、知らなかった。お爺ちゃんって強いんだね」

 

その時、僕は思った。「違う。違うよ…それは違う」

 

その後、彼女とは別れてしまったが、今頃、彼女はきっと素敵な家族と和やかに鍋を囲んでいることだろう。

 

また鍋の季節がやってくる。