きのみきのまま なすがまま

楽しもうと思わなきゃ楽しくないよ

商売の基本

書道家に字を褒められた父親は旅館の至る所に字を書き、貼り出し始めた。

 

「タケシ!どうだ!この言葉。凄いだろ?深いだろ?」   

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あたかも自分で思いついた名言のように話すが、これは新選組近藤勇の言葉だった。

 

「お父さん。ダメだよ!これ、パクリでしょ!自分の言葉みたいに書いたら問題だよ」

 

「ダメか…分かった…」

 

しばらくして父親から電話が来て「凄い素敵な言葉を思いついた。書いてみたから見に来てくれ!」と言われた。旅館につくと、大きな文字で…

 

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と書かれていた。

 

「あいだみつをだ… コレ、あいだみつをの『だってにんげんだもの』じゃないか…」僕は震えた。

 

「良いだろ? この言葉… やっぱ人間じゃん! いやぁ…深いよなぁ…」

 

それから数日するとまた父親から電話があった。

 

「タケシ。俺、凄い商品を思いついたんだよ。ちょっと来てくれないか?」

 

旅館に着くと父親は真剣な顔で語り始めた。

 

「あのな。今日、シートベルトの取り締まりしてたんだわ。で、ほら。山田ん家の爺ちゃん、可哀想に捕まっててさ…その姿見てたら…俺、思いついたんだわ!」

 

そう言って父親は真っ白なグンゼのシャツを取り出した。

 

そのグンゼの白シャツはマジックで斜めに真っ黒な線が描かれていた。

 

「どうだ!コレ。このシャツ着てれば、もし、シートベルトをするのを忘れてしまっても…パッと見たら、シートベルトしてるように見えるだろ? コレは売れるぞ!」

 

「お父さん。ダメだよ。2重の意味でダメ。法律違反だし、売れないよ…」

 

そして、ある夏の日に父親から電話があった。

 

「カブトムシを売るぞ! これからはカブトムシの時代だ!哀川翔も言ってるぞ!」

 

旅館に行くと何十匹ものカブトムシがいた。

 

「村で取れたカブトムシ!100円!」 と大きな文字で看板が書かれていた。

 

「お父さん こんなに沢山のカブトムシいつ取ったの?」

 

「あー、これか。外国産のやつ業者から買ったんだ。で、しばらくそこに放しておいて、また取ったんだよ。生まれは外国、育ちは日本だ

 

熊本産あさりと同じ手法である。あさりより何十年も前にこの国ではカブトムシ偽装が行われていたのである。

 

翌日、仕事に出勤すると会社の上司が話しかけてきた。

 

「タケシくん。今朝ね…深夜にゴーン、ゴーンって大きな音が聞こえて…外を見たらお父さんが看板を道路沿いに打ち付けていたよ…」

 

カブトムシ100

 

その看板を父親はバイパスの降り口から旅館までの10㎞程の距離に何百本と打ち付けていた。

 

無許可。許可など取っていないのである。

この人にあるのは勢いだけだ。

 

カブトムシ100の看板は話題になり、新聞にも掲載された。

 

それから数日後、旅館に行くとカブトムシがいなくなっていた。

 

「お父さん カブトムシは?どうしたの?」

 

「あー、アレか。看板見た人がまとめて買っていったわ。ガーナ人だったかな?なんか外国の人がまとめて欲しいって言ってな。まとめて買っていったわ」

 

帰ったのである。

 

外国生まれ、日本育ちのカブトムシは外国に戻ったのだ。

 

セブンイレブンやローソン、ファミリーマート…それぞれのコンビニで多量にパンを購入してきて旅館で売っていたこともある。

 

ローソンの『からあげくん』に影響を受けたのであろう。

 

旅館で揚げた唐揚げをパックに放り込んで…「出来たぞ!『からあげさん』だ!」と売っていたこともある。

 

とんでもない父親だが、貫き通していた信念がある。

 

笑売繫盛

 

商売ではなく、笑売

 

商品を売るのではなく、笑いを売る。

 

コンビニのパンも定価で売っていた。遠くの店に買い物に行けない爺ちゃん、婆ちゃんがパンを買えるように。

 

カブトムシも人口が減り、話題のない過疎の村を盛り上げるための話題づくり。

 

儲けはあとからついてくる。

 

見返りを求めず… 喜んでもらうこと。笑ってもらうこと。

 

商売の基本。笑売の基本。

 

素敵な信念な気がするこの頃…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はみ出しちゃう

父親は旅館に勤めていた。

 

旅館とは言うが、食堂はあるわ、冠婚葬祭や法事は行うわ、飲み会も…そして、食材や洗剤なども売っている商店みないな店も併設していた。

 

そして、この謎の旅館で父親の肩書は調理師だったが、仕入れから調理、バスでの送迎、冠婚葬祭の司会、店番から何から何までやっていた。

 

「破茶滅茶」「滅茶苦茶」:全く筋道が通らないこと、前後を考えずに行動すること、度を越していること。 父親を表現する時には、この言葉が一番しっくりくる。

 

まずは、この写真を見て欲しい。

 

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これである。手書きでこういう看板を書きまくる、むしろ書き殴るのである。

 

そして食堂を見て欲しい。

 

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どうしてこうなるんだ? 

左上の親子丼と右下の親子丼は違う親子丼なんですか? お父さん…

何かの間違え探しですか? お父さん…

 

一度、精神科医が食事をしに来た時に真剣に父親のことを心配していたという…

 

僕は子供心に父親が書く看板が恥ずかしかった。

 

ある日、父親と旅館でお茶を飲んでいると、一人のお客さんが父親に話しかけてきた。

 

「いやぁ。凄い字ですね。どうしたらこんな字を書けるんですか?」

 

父親は答えた。

 

「あー。あれだな。みんな紙の大きさや、看板の大きさに縛られるだろ? 縛られちゃダメ。はみ出して良いんだよ。紙や看板からはみ出て、道路に書いちゃうくらいの勢いで書くんだよ」

 

「ほぅ… 一度、書いてもらえませんか?」

 

そして、父親はそのお客さんの前で看板に字を書くことになった。

 

「失礼ですが、墨は何をお使いですか?」

 

「墨? 墨なんか使わねぇよ。看板だぞ。看板。このペンキだよ、ペンキ」

 

「ペンキですか… 失礼ですが、筆は何をお使いですか?」

 

「はぁ?筆? 筆なんか使わねぇよ。ペンキを塗るハケあるだろ?アレだよ。アレ」

 

そう言って父親は看板にペンキとハケで字を書こうとした。

 

「あれ?タケシ。お前、ハケ知らねぇか? ペンキを塗るハケねぇな…」

 

「おぅ…それじゃぁ、今日は書けませんか?」

 

「いや、ハケなんかいらねぇよ。これで良いや。これで」

 

そう言って父親は亀の子タワシを使って、看板に字を書き始めた。

 

「てや! ほら。よし。ほれ!! ほら。出来たぞ」

 

「はぁ~、タワシで字を書くんですか…」

 

「タワシが無ければこうするわ!」

 

そう言って父親は手にペンキをべったりつけて字を書き始めた。

 

「これで良し!と…」

 

数日後、旅館に手紙が届いた。

 

有名な書道家の方からだった。そこには「個展を開くので字を描いてもらえないか?あなたの作品も飾りたい」と書かれていた。

 

「面倒くせぇ。これから法事の準備で忙しい」と父親は断った。

 

縛られるな。

 

囚われるな。

 

与えられたキャンパスからはみ出て良いんだ。

 

常識を疑え。

 

習字は筆と墨で書くと誰が決めた?

 

ペンキとハケで良い。それすら無ければ、タワシや手でも字は書ける。

 

はみ出て良いんだ。

 

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幸せになる秘訣…

幸せとはなんだろうと考える。

 

幸せは人それぞれだ。

 

相田みつをも言っている。「幸せはいつも自分の心が決める」

 

まさにそうだ。 幸せの定義は人それぞれだ。

 

ある人は白いご飯を食べられたらそれだけで幸せだというかも知れない。

 

一方である人は年収700万円無いと幸せではないというかも知れない。

 

そう考えると幸せになる秘訣のひとつは「幸せのハードルは低くして、不幸せのハードルを高くする」ことだと思う。

 

例えば、コーヒーをゆっくりと飲む時間があれば幸せだとしたら、あなたが幸せになれるチャンスはぐっと高くなるだろう。

 

逆に全財産を失って、世界中の人が自分のことを嫌いだということを不幸せだとしたら不幸せになる確率はぐっと低くなるだろう。

 

テレビをつけると暗いニュースが続いている。コロナ、戦争…

 

そんな僕は最近、ジャパニーズヒップホップを聞きまくった。

 

知るということには2段階あると思う。

 

例えばお寿司について…本やネットから情報を集めた人は言うだろう。

 

「酢飯の上に魚の切り身が乗っている日本の食べ物だ」と…これもお寿司について知っているのかも知れないが、これはお寿司を本当に知っていると言えるだろうか?

 

本当の意味でお寿司について知っているのはお寿司を食べたことがある人間なのではないだろうか?

 

経験を通してはじめて人は本当に知ることが出来る。

 

だから、僕は本当に何かを知りたい時には経験者=体験を通して学んだ知識を聞くことにしている。

 

さて、本題に戻ろう。

 

僕は知りたいから…最近、ジャパニーズヒップホップを聞きまくった。

 

遊び金欲しさに  どついちまって悪かったなおっさん 障害や窃盗 恐喝に強盗 他の地区との抗争 楽しくて失禁しそう (MSC 心にゆとりさわやかマナー)

 

たかだか大麻、ガタガタ抜かすな(舐達磨 LifeStash)

 

お袋は包丁 妹は泣きっ面に馬の骨の罵声はサディスティックだ 水商売 母一人子二人 薄暗い部屋で眺めた小遣い 馬の暴力は虐待と化す 十三の八月 何かが始まる 中学卒業も更生院 数年後には準構成員(小名浜 鬼)

 

川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ(BADHOP KawasakiDrift)

 

kill kill kill 俺を殺しな 俺を殺しな だって俺は殺し屋 お前の命危ないから 殺しな 俺は殺し屋 (ANARCHY Kill Me feat.般若)

 

どうしたことだ。これ、同じ日本だぞ。物騒にも程があるぞ…警察案件ばかりじゃないか…暴力、虐待、薬物、そして殺し屋という自己紹介。

 

とんでもねぇ経験してやがるな…

 

でも、これだけの経験をしている人が伝える「幸せになる秘訣」があるとしたら…

 

これ、間違いないと思いませんか?

 

ジャパニーズヒップホップを聞きまくった結果…多くのラッパーが共通して歌っていたのが…

 

・自分 ・家族 ・友人 ・地元 ・夢  この5つでした。

 

ありとあらゆる経験…暴力、虐待、薬物、殺し屋などという自己紹介…とんでもない経験を通して…彼らがリリックに乗せていた幸せになる秘訣は…

 

・自分 ・家族 ・友人 ・地元 ・夢  この5つでした。

 

自分:自分を大切にしましょう。この世に自分は自分だけ。自分を愛してあげましょう。

 

家族:特に親に感謝している比率高過ぎです。中でも母親ですね。やんちゃして迷惑かけました…からのマジ感謝です。

 

友人:これはどんな時でも自分を信じてくれた友ですね。どんな時でも傍にいてくれた、信じてくれた親友。絶対裏切らないマイブラザーです。

 

地元:何故か地元を愛している比率高いです。俺を育んだ地元・地域にリスペクトです。

 

夢:やっぱり持つべきです。夢ですよ。夢。周りは全部否定した。だけど俺は捨てないマイドリームです。

 

はい。皆さん、注目です!

 

少年院に行く必要はありません。障害、暴行、虐待、ましてや殺人などする必要はないんです!違法薬物、これもやらなくて良いです!

 

もうそれ全部やった人がリリックに乗せて教えてくれてますから。

自らの経験・体験を通して教えてくれていますから。

 

なので…もし、あなたが幸せになりたければ…

 

自分を大切にしましょう。自分を愛せなきゃ人は愛せません。

 

家族に感謝しましょう。そりゃ色々あるけど、ありがとうと伝えましょう。

 

友達…少なくて良いんです。ただ、あなたのことを信じてくれる、そしてあなたも信じてあげられる友人は貴重です。大切にしましょう。

 

地元…地域を愛しましょう。あなたが住んでいる地元、地域が素敵になるように心がけましょう。

 

夢を持ちましょう。馬鹿にされても良い。むしろ馬鹿にされるくらいの夢を持ちましょう。

 

ほら。

 

幸せの秘訣って少年院や警察沙汰…違法薬物を経験しなくても身近にあるんです。

 

経験を通して教えてくれています。ジャパニーズヒップホップ。

 

リスペクト。

 

※ 実は今までジャパニーズヒップホップは聴かず嫌いで…今回、聴きまくったところ素敵な歌見つけました。おすすめです♪

 

www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファーストフード

僕らは初めて産まれたんだ。

 

だから、失敗なんて当たり前。どんなことにも「はじめて」はあるんだ。

 

僕と父親は2人で買い物に出掛けた。その日は父親が旅館の仕事で忙しく、ゆっくり過ごす時間は無かった。

 

「タケシ。腹減ったな。飯食ってくぞ!時間も無いからマクドナルドにするぞ」

 

マクドナルド? それは僕にとっての「はじめて」だった。

 

自動ドアが開く。父親は物凄い勢いでマクドナルドに入っていく。

 

「コレとコレ。こいつにもコレとコレで。飲み物は…コーヒーとオレンジジュースで」

 

あっという間に注文をして凄い勢いで席に座る父親。僕も後に続く。

 

「お父さん。これがマクドナルド? なに?パン屋さん?」

 

「おー。タケシはマクドナルド初めてだもんな。マクドナルドはファーストフードだな。早いし、美味いぞ。来たら一気に食えよ!」

 

そして、運ばれてきたチーズバーガーに父親は物凄い勢いで食らいつき、油で手と口をベタベタにしながらポテトをこれでもかと頬張っていく。

 

「タケシ!行くぞ!!」

 

一気に食べ終えた父親はテーブルにトレーとゴミをそのままに走り出すように店を飛び出していった。まだ食べ切れていないチーズバーガーとポテトをそのままに僕も父親についていく。

 

「お父さん。マクドナルドって美味しいね!僕、全然食べれなかったけど…でも、凄い美味しかった」

 

マクドナルドはファーストフードだからな。ファーストは早いって意味だぞ。タケシも次はもっと早く食べられるようにならなきゃな!」

 

そして、父親は旅館の仕事に向かった。

 

それから1年後…中学生になった僕は友達3人と買い物に出掛けた。

 

「よし。お昼はマクドナルドにしようぜ!」

 

友達の和也が言い、僕らはマクドナルドに入った。

 

自動ドアが開く。僕は凄い勢いで店に入り、チーズバーガーセットを注文した。

 

届いたチーズバーガーに必死になって食らいつき、ポテトをウーロン茶で流し込んだ。

 

友達が僕に話しかけてくるが、そんなこと構っていられない。

 

食べ終えた僕はテーブルにトレーとゴミを置いたまま、急いで店を飛び出した。

 

「タケシくーん!!どうしたの? なに? 具合悪いの?」

 

友達の和也が追いかけてきた。

 

僕は言った。

 

「はぁ…はぁ…みんな…もっと早く食べなきゃダメだよ!」

 

その日、僕は知った。

 

ファーストフードは注文してからすぐに食べられる手軽な食事だということを。

 

決して急いで食べる必要などないということを…

 

マクドナルドのトレーとゴミは自分で片付けるんだということを…

 

失敗なんかない。僕らはいつも成功の途中なんだ。

 

だって、僕ら初めて産まれだんだから。

 

あぁ…ハッピーセットって良い響きだなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキー教室

「たけし。明日のスキー教室の準備出来たの?」

 

「うん。お母さん。準備したよ!スキーウエアに…スキーも持ったし…おやつも入れたよ。お昼はみんなでカレーだって♪ 楽しみだなぁ。スキー教室」

 

「初めてのスキー教室だもんね。楽しんできてね!」

 

「うん!僕、スキーは得意だから♪ 楽しんでくるね!」

 

こうして僕は初めてのスキー教室に出掛けた。バスに揺られて1時間…初めてのスキー場に到着した。

 

僕はスキーに自信があった。スキー場には行ったことが無かったが、小さい頃から家の周りでスキーをしていたし、学校でもスキー授業があったから。

 

だから、スキー教室って言われても「教えてもらうことなんかないのになぁ」くらいに思っていた。

 

「では、皆さん。自分の荷物を確認して…まずはスキーを履いて、準備してください。履き方が分からない人は先生に言うこと!」

 

「はーい!」

 

次の瞬間、僕は自分の目を疑った。

 

みんなのスキーが太い! 驚くほど太い! そして、なんなんだ…あのロボットの足みたいな靴は… なんだ… これはいったい…

 

「たけし君 どうしたの? スキー忘れたの?」

 

クラスメートの真紀ちゃんが尋ねてきた。

 

「えっ…いや…スキー持ってきたんだけどさ…」

 

僕は恐る恐る自分のスキーを袋から出した。

 

「やだ。たけし君…それ、クロスカントリースキーじゃない!」

 

先生がその声を聞いて駆け寄ってきた。

 

「たけし。少し先生と話をしよう」

 

先生は優しかった。怒りの先に諦めがあり、諦めの先に哀れみがあると僕は思う。

 

「たけし。今日はな、アルペンスキーの授業なんだ。どうする?スキー場でレンタルすることも出来るぞ」

 

「先生。大丈夫です!僕、お父さんと何度もスキー場に来ています。このスキーで何度も滑っているから。大丈夫です」

 

「いや…たけし…それは…本当にお父さんとそのスキーでスキー場で滑ってるのか?」

 

「うん。先生。うちはお父さんもお母さんも…妹もこのスキーでスキー場に何度も来ています!」

 

周りの憐れみの視線が辛くて…僕は嘘をついてしまった。

 

そして、僕はクロスカントリースキーのまま、初めてのスキー教室に参加することになった。

 

「では、みんな揃ったので…リフトに乗ります。乗ったことない人は手をあげて」

 

この時点で僕はもうクロスカントリースキーを履いて何度もスキー場に来ている男の子なのである。「リフトって何?」と心臓がバクバクするが、言い出せない。

 

それなのにリフトまで行くとなったら、誰よりも速い。何故ならクロスカントリースキーだからだ。平地を進む時の僕の姿を見ろ。なんたって靴がスキーから離れるからな。お前らみたいにギブスで固定したような足じゃないんだ。

 

なんて思いながら初めてのリフトに到着した僕は見よう見まねでリフトに乗った。

 

怖かった。ものすごく怖かった。

 

隣に座った優くんが僕に尋ねてきた。

 

「たけし君、凄いね。そのスキーで上から滑ってくるの?それ止まれる?」

 

「うん……大丈夫だよ…ところで優くん…このリフトって最後、どうなるんだっけ?飛び降りるんだっけ?なんか前に来た時と違うからさ…ちょっと教えて」

 

「たけし君…大丈夫?顔色が悪いよ。リフト飛び降りちゃだめだよ!それ、前にどんなリフト乗ったの?ほら、もうつくよ。足上げて滑って降りるんだよ」

 

何とか見よう見まねでリフトから降りた僕は降りた瞬間にその景色に度肝を抜かれた。

 

平らじゃない。なんなんだ。この斜面は…こんなところをこのほっそい、ほっそいスキーで滑って降りれる訳ないじゃないか‥

 

そして、スキー教室が始まった‥

 

 「では、皆さん。スキーの先端を重なるようにして‥ゆっくり行きましょう。止まる時はエッジを効かせて‥さぁ。先生の後に着いてきてください」

 

ぎゃーーーーーーー‼️ 

 

 止まれる訳が無かった。エッジを効かせてと言われても、エッジなんか無いんだから。だって、ホラ‥ほっそい、ほっそいスキーなんだから‥

 

結果、僕はレスキューの人のスノーモービルに乗って下まで降りることになった。クロスカントリースキーを肩に担いだ小学生が雪山をスノーモービルで駆け降りてくる。怪我なんてしていない。ただ、僕はクロスカントリースキーを持ってきてしまっただけなんだ。 

 

その後、僕は先生からお金を借りて…アルペンスキーをレンタルした。

 

凄く楽しかった。

 

先生は最後まで優しかった。友達も誰一人クロスカントリースキーを持ってきたことを聞かなかった。きっと先生が言ってはダメだと伝えてくれたのだろう…

 

ただ、お昼にカレーを食べながら、優くんは一言だけ「スノーモービルに乗って下がっていった姿…たけし君、格好良かったよ」と言ってくれた。

 

僕は顔を真っ赤にさせて「ありがとう…」と言った。

 

小さな嘘は大きな嘘に繋がっていく。

 

物事の解決には適切な道具を選ぶこと。

 

憐れみはどの感情よりも心にこたえること。

 

スキー場のカレーは美味いこと。

 

色々なことを学んだ僕の初めてのスキー教室。

 

 

目薬

「パフェの語源はパーフェクトだよ!」という情報くらいに既にご存じの方もおられましょうが… 私が産まれた家ではテレビがまともに映らなかった。

※ 気になる人はblogのアンテナを読んでみよう♬

 

さて、中学生の頃といえば、自意識が芽生え、格好をつけたくて仕方がないお年頃…

 

クラスで目薬が流行った。授業が終わるとみんな目薬を差す。

 

その姿が格好良くて僕も親に頼んで目薬を買ってもらった。

 

ある日、クラスの女の子達と話していた時に目薬の話になった。

 

「私、リセって目薬使ってるよ。タケシくんは?男の子はどんな目薬使うの?」

 

美咲ちゃんが僕に尋ねてきた。

 

ここで僕の格好つけたい気持ちが全面に出てしまった。

 

「俺? 俺はキメだね。キメ。刺激強いけど、効くんだよ、キメは!」

 

全力で格好つけて僕は言った。

 

「えー、キメなんて目薬あるんだぁ。見せて、見せて♪」

 

「ほら。コレだよ。コレ」

 

 

 

         

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「えっ…これ…キメじゃないよ!エフエックスだよ!」

 

 

「エッ…エッ…エフエックスゥ~!?…知らなかった。テレビでCMとか観たことなかったから…てっきり達筆の書道家が墨を撒き散らしながら勢い良く キメ って書いたオシャレ全開のパッケージかと思ってたよ…」心の中で呟きながら…恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて僕は言った。

 

 

「やっぱりな…そうだよね!」

 

 

あれから数十年…僕は間違えを素直に認められる大人になれただろうか?

 

はじめて産まれたんだ。間違えるのが当たり前。

 

大切なことは素直に間違えを認めることなんだ。

 

エフエックス。ありがとう。君のお陰で学ぶことが出来たよ。

 

缶コーヒー

「カボチャの語源はカンボジアだよ!」という情報くらいに既にご存じの方もおられましょうが… 私が産まれた家ではテレビがまともに映らなかった。

※ 気になる人はblogのアンテナを読んでみよう♬

 

中学生になった時にクラスのみんなが「昨日、月9観た?」と盛り上がっている時、「あ~、ゲツクね…観たよ。凄かったね!」と言いながら、頭の中では「ゲツクとは何ぞや? スポーツか…芸人か…はたまた番組名か?…」と自問自答を繰り返すのである。まるで暗闇の中で未知の敵と戦っているかのような日々を通して、僕は「分かるわぁ、分かる!」で大抵の会話は乗り越えられることを知った。

 

さて、中学生の頃といえば、自意識が芽生え、格好をつけたくて仕方がないお年頃…

 

ある日、「負けた奴がジュースを奢る」というゲームをしていた。

 

結果、クラスメートの直也がゲームに負け、みんなにジュースを奢ることになった。

 

「何飲みたい?俺、買ってくるよ」 コーラ、オレンジ、リンゴジュース…

思い思いに直也に注文するみんな…

 

ここで僕の格好つけたい気持ちが全面に出てしまった。

 

直也が尋ねる。「タケシは何にする?」

 

「俺?…俺はそうだな…コーヒーが良い。ゲオルギアの缶コーヒーが良いな!」

 

「何? ゲオルギアの缶コーヒー? そんなのあったっけ?」

 

「あるよ!前に自販機で見たもん。家のお父さん買ってきて、家で良く飲んでるし…」

 

「分かったよ。まぁ、行ってくるわ」

 

直也が自販機に向かって走り出した。

 

しばらくして直也が戻ってきた。

 

「タケシ。コーヒーなんだけど、ゲオルギアなんて無かったよ。これしか無かった」

 

そう言って直也が渡してきた缶コーヒーはゲオルギアだった。

 

全力で格好つけて、僕は言った。

 

「直也。ありがとう。これだよ!これ。美味しいんだよ。ゲオルギア」

 

 

「えっ…それ…ジョージアだよ!」

 

 

  

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「ジョ…ジョ…ジョージア!?…知らなかった。テレビでCMとか観たことなかったから…」 心の中で呟きながら…恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて僕は言った。

 

「分かるわぁ…分かる!」

 

この日、僕はこの世に「分かるわぁ…分かる!」では絶対に乗り越えられない会話があることを知った。

 

あれから数十年…僕は知らないことを知らないと言えるそんな大人になれただろうか?

 

GEORGIA  ありがとう。ジョージア